少しも寒くないわ。
エルサ(アナと雪の女王)
夜な夜なまちで頬張りつくアスクリームが好きだ。
わたしが考える都市力とはとても単純で、夏だって冬だって、最高に美味しいアイスクリームがいかに夜、まちのど真ん中で手に入るかにかかっている。シアターに行った帰り、家で食事した後、思いつき地点がどこであれ夜散歩したくなる、それも安全に道を歩ける都市にはきっと行政の努力と市民の強い意思があるにちがいない。そして一等地に、決して高いとは言えない単価のアイスクリームが、季節ものであるはずのアイスクリームが年中手に届くためには、少なくとも何度でも食べたくなる最高旨いものでなければならないと同時に、場所貸しする地主にだって文化的・社会的理解がないとこんな商売は続けられないのである。さらにそれを支えるお客にも、遊び心や世界中のこどもの楽しみを育む気持ちがあるはずで、でないと寒々しいパリの冬の夜にわざわざこんなものを買いに行こうなんて考えない。わたしはだから、いつだって訪れる都市では必ずアイスクリーム屋を探しながら道を散歩する。美味しいアイスクリーム屋があるまちには未来がある。きっとこの場所にまつわる人たちは幸せに違いない。旅人でも、住民でも。
口の中でまとわりつくこのまちのアイスクリームは独特だ。
濃厚な空気の塊と、微かな牛乳の香りが脳を興奮させる。混乱させる。
盛りつけ方だって無性に色気がある。
間違いなくこれはパリで愛されるべきアイスクリームだ。
このまちはいつ来ても色っぽい。
夏の朝露にだって、秋の夜風にだって、
パリの水分には音、リズム、視線、驚きが混じっている。
たまたま辿り着いた旅人である自分の身体と、
この場のもつ揺るぎない自信とが、また、官能的につなぎ留められる。
そしてわたしを永遠にこのまちの虜にする。
腰をうようよ震わす、不揃いな石畳。
ブレない並木道。ゆらぐまちの動線。
まちがチラ見せする合間、愛間のランドマークは歴史の不意の落とし物。
かなた遠くから雲をかき分け、
まちに囁く教会の鐘は、わたしの細胞を目覚めさせる。
沈む夕日を明日のエネルギーに変えて、
まち全体に希望を放つパンテオン。
その隣には遊ぶ人たちをまるで劇場の舞台のように演出してくれるリュクサンブール公園。
このまちには人と人のドラマが、魅せ場が、散りばめられている。
このかつての王様の玉手箱は今の時代でも健在だ。
パリは変わらず色っぽい。

